東山紀之らが担ったジャニーイズムの継承。しかし、山口達也の退場が時代の変わり目を告げた【宝泉薫】「令和の怪談」(11)
「令和の怪談」ジャニーズと中居正広たちに行われた私刑はもはや他人事ではない(11)【宝泉薫】
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もしこの世からジャニーズアイドルがいなくなったら――。それはこの本の読者にとってありえないし、あってはならないことだろう。しかし、その可能性はゼロではない。実際、山口達也は姿を消した。他のアイドルだって、いなくならないとは限らない。深刻なのは、彼を抹殺したのがスキャンダルそのものというより、スキャンダルを否定する世間の気分だったことだ。今や誰もが、そういうかたちで消される可能性があるということでもある。
ちなみに彼の場合、おそらく落ち度はあったとはいえ、最終処分はあくまで不起訴。それが事実上のクビにまで至ったのは、最近の世の風潮と無縁ではない。フランスでは女優のカトリーヌ・ドヌーヴが「#MeToo」現象を「密告への招待」だとして批判し「芸術における粛清」を危惧したところ、謝罪に追い込まれた。自由と個人主義を愛するはずの国ですらそうなのだ。スキャンダル否定、特に性的なそれの排除など、芸能には百害あって一利なしにもかかわらずである。
というのも、芸能、とりわけアイドルはSとMの関係上に成り立つからだ。たとえば、嵐がデビュー時にまとったスケスケの衣裳には「やらされてる」感が丸見えだったが、それでもファンがちやほやすることで、彼らは「オレ様」感を得ることができる。また、表では爽やかな王子キャラに徹しつつ、裏では色っぽい遊びもすることでストレスも発散できるわけだ。
したがって、現場は公私混同なくらいが望ましい。恋人同士を演じるなら実際に恋におちたほうが手っ取り早いのと同じ道理で、バラエティも男女がわちゃわちゃ楽しくやれていたほうが独特の面白さが生まれる。恋愛への圧力や自制心もあいまって、そのねじれがエロスを生むのだ。『Rの法則』はまさにそういう空間だった。子供番組の多いEテレのノリで楽屋が男女一緒だった時期もあり、大人の番組ではありえないような、共学校の教室みたいな爽やかさと色っぽさが混在する場になっていた。
そういう場に、山口はうってつけの存在だった。かつて『おネエ★MANS』のMCとしてオネエブームにひと役買ったように、どこか猥雑でもある空間を明るく健全そうに仕切ってみせ、うまく盛り上げていた。もちろん、きわどい場でもあるから、後輩のジェシーや田中樹らが番組内交際をネットで噂されたり、川谷絵音と騒がれたほのかりんのような子も輩出。最後は山口自ら、その魔力に身を持ち崩してしまう。これはある意味、昭和生まれの貪欲さゆえだろうか。
とはいえ、今のアイドルだって自由にいろいろやりたいだろう。問題は誰がそれを守れるかだ。事務所に期待したいところだが、かつて田原俊彦や近藤真彦のスキャンダルを丸くおさめたようなことは難しいかもしれない。事務所自体にセクハラやパワハラといったイメージがあり、世間のスキャンダル否定派の覚えがよくないからだ。
また、事実上のトップであるメリー副社長が下品な下ネタや下賎な女性を嫌悪しているという事情もある。自社のアイドルが攻撃されれば全力で守ろうとはするものの、スキャンダルの質や相手によってはシビアにもなるということだ。そんな彼女のお気に入りは松岡昌宏や櫻井翔。松岡は山口の件で「あなたは病気です」と言い切り、櫻井は嵐4人がつきあったと噂された女性タレントが自殺した際、その女性を唯一避けていたと報じられた。個人的に、メリー女史の潔癖主義には好感を抱くものの、これを突き進めると、やんちゃで色っぽいタイプが生き残りづらいという結果にもなる。諸星和己のような独立組のほうが「アイドルらしい艶を維持している」という榊ひろとの指摘は的を射ているのではないか。
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